衡平の原則

建築後52年を経過した総戸数14戸のマンションです。再建後も同規模程度しか建築できないようでデベロッパーも相手にしてくれず、自己負担でも建替えようと施工会社に依頼して建替え計画が進んでいます。建替え決議も目前ですが、所有者が居住している住戸は4~5戸です。大部分の居住者が高齢で負担も難しいので、住戸選定に関して、居住している人を優先して良いだろうと建替え決議に盛り込もうと考えています。問題ないでしょうか?

1 住戸選定ルールを建替え決議で定める必要
(1)区分所有法62条2項4号
老朽化マンションを建替える場合には、建替えにより新たに建築されるマンション(再建マンション)に住戸を取得したい、と思っている区分所有者は、自分の希望に沿う住戸を取得できることを望みます。したがって、そのような区分所有者にとっては、再建マンションの住戸選定がどのようなルールに基づいて行われるかは、大変重要なことです。それ故、区分所有法62条2項4号は、「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」について、建替え決議で定めなければならないと規定しています。なお、一括建替え決議についても、区分所有法70条3項5号が同様の規定をおいています。

「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」について建替え決議で定める場合の定め方については、1983年区分所有法改正(建替え決議は、そのときに新設されました)を担当した浜崎判事は、次のように説明しています。

「[再建建物の区分所有権の帰属に関する事項]は、再建建物の各専有部分を誰がいかなる対価をもって取得し、その対価の清算をどのようにするかに関する事項であり、この点も、改めて参加者間で合意をしなくても自動的に定まるように、その決定の方法又は基準を定めることを要する。

どの専有部分をどの参加者が取得するかを決定する方法(例えば、希望により、希望が競合したときは抽選によるなど)を定めた上、余剰の専有部分は他に売却(分譲)するものと定めることになろうが、売却分についても、原始的に誰が取得することとするか(全員で共有するか、特定の参加者又は第三者が原始取得するか)を定めておくことが必要である。そして、各専有部分の価格とその清算又は売却した場合の代金の分配方法等について定めることになろう。」(浜崎 恭生、「建物の区分所有等に関する法律の改正について(九)」、法曹時報38巻6号1360頁)。

(2)実際には、どのような定め方をするか
実際に、建替え決議の議案の中で、「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」について定めるときには、どのように書くのでしょうか。同潤会江戸川アパートメントの例をご紹介しましょう(これは、太田知行、村辻義信、田村誠邦編著、「マンション建替えの法と実務」、有斐閣、2005、322頁に登載されています)。

「再建建物のうちの等価交換の対象となる区分所有権の帰属については、別紙(4)『住居選定方式規定書』に記載の抽選方法により確定するものとする。その他の専有部分の区分所有権は再建建物の建築事業者若しくは同業者の指定する第三者に帰属するものとする」。議案書にこのように記載した上で、別紙の住居選定方式規定書で、抽選手続を詳しく説明しています。

2 衡平性による制約
(1)区分所有法62条3項の趣旨
区分所有法62条3項は、「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」について建替え決議により定める場合には、「各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない。」と規定しています。一括建替え決議についても、同法70条4項が、同法62条3項を、一部読み替えた上で、準用しています。

この規定の趣旨については、再建建物の区分所有権の帰属に関する事項が「公平(ママ)に定められなければ、不利益な取扱いを受けることとなる区分所有者は、建替え決議に反対せざるを得ないこととなるが、この衡平を確保することによって、建替えに参加することを欲する者に参加の機会を与えようとする」ことだといわれています(浜崎、前掲「建物の区分所有等に関する法律の改正について」、1361頁)。

この浜崎判事の説明を敷衍すると、次のようになるでしょう。再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」について衡平を害する定めがなされた場合には、これにより利益を害される区分所有者は、建替え決議に反対せざるを得なくなることが起こり得ます。他方、建替え決議は区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成があれば成立しますから、これにより不利益を受ける区分所有者が少数の場合には、これらが建替え決議に賛成しなくても、決議は成立してしまいます。その結果、この衡平を害する定めにより不利益を受ける少数区分所有者は、建替え決議非賛成者として、これに賛成した区分所有者等から売渡し請求を受け、結局、区分所有権を失うことになります。区分所有法62条3項は、このような事態の発生を防ぐことを目的としているのです。

(2)衡平とは?
それでは、再建建物の区分所有権の帰属に関する事項についてどのような定めをすると、衡平を害することになるのでしょうか。ここでいう「衡平」とはどのような意味でしょうか。これについて判示した判例はありませんし、この点を論じた学説もないようです。

「衡平」ということばは、区分所有法62条3項以外に、同法30条3項でも使われています。すなわち、同法30条3項は、管理規約は「区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。」旨定めています。

この区分所有法30条3項は、2002年の区分所有法改正で新設された条文です(同法62条3項は1983年改正のときに新設された条文ですから、それより後です。)しかし、一部の区分所有者にとって有利若しくは不利な管理規約は無効か、という問題については、同条文の新設前からいくつかの判例があり、この条文は、これらの判例を参考にして制定されたといわれています(吉田 徹編著、「一問一答改正マンション法 平成14年区分所有法改正の解説」、商事法務、2003、35頁)。したがって、「衡平」とはどのような意味かを考える上では、これらの判例が参考になります。

東京高判昭和59年11月29日判例時報1139号44頁は、共用部分の使用頻度の違いを考慮せずに専有部分の床面積を基準にして各区分所有者の管理費を定めた管理規約の有効性が争われた事案について、「必ずしも相当ではなく、将来より合理的な定めがなされるべきであるが、床面積による前記規約を著しく不公平であり、公序良俗に反して無効であるとまでいうことはできない。」と判示しています。

東京地判平成2年7月24日判例時報1382号83頁は、法人組合員と個人組合員の負担する管理費等の割合に差異を設けた管理規約の有効性が争われた事案において、「多数決で定められた負担金に差異を設ける規約、決議等は、目的又はその差別の方法が不合理であって、一部の者に特に不利益な結果をもたらすときは、私的な団体自治の限度を超え、原則として民法90条の規定する公の秩序に反する・・・」と判示して、本件管理規約が、管理費の差別的取扱いを定めている限度で無効である、と判示しています。

これらの判例から考えると、「衡平を害する」とは、ある規約(管理費の負担額に関する規約が、特定の要素を考慮していないこと(東京高判昭和59年11月29日では共用部分の使用頻度)、または、考慮していること(東京地判平成2年7月24日では区分所有者が個人か法人か)に合理性がなく、かつ、それによる不利益が著しい場合を指すと考えることができるのではないでしょうか。

3 質問事案の検討
以上述べてきたことに基づいて、居住区分所有者を優先する住戸選定ルールについて建替え決議で定める場合の問題点について検討します。

(1)建替え決議の議案書にどう記述するか
浜崎判事が述べていられますように、区分所有法63条2項4号(若しくは、同法70条3項5号)の「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」については、「改めて参加者間で合意をしなくても自動的に定まるように、その決定の方法又は基準を定めること」が必要です。居住区分所有者に優先的な住戸選定権を与える場合には、区分所有者が、現在、老朽マンションに「居住している」か否かが「自動的に定まる」のかが、問題になるように思います。たとえば、①死亡した親の区分所有権を複数の子供が相続し、そのうちの1人が居住している場合、②同居していた親子のうち区分所有者の親は介護施設に入居し、その子供がだけが住戸に残っている場合、③そのマンションの住戸には荷物は置いてあるが、実際には、マンション外の家でほとんど生活している場合などには、居住区分所有者になるかどうか問題となります。議案書では、これらの問題について一義的に決定できる基準を作成することが必要です。

(2)住戸選定の方法は衡平か
再建マンションに住戸を取得することを希望する老朽マンションの区分所有者の住戸選定方法としては、おそらく、抽選が、もっとも、衡平に合するでしょう(上述したように、浜崎判事も、この方法を例示しています)。しかし、衡平に合する選定方法は、もちろん、これだけではありません。たとえば、平均還元率が100パーセントに及ばない建替えにおいて、高齢で資力に乏しい居住区分所有者の再建マンション住戸の取得を可能にするために、再建マンションの設計段階で、あまり居住条件のよくない場所に専有面積が少ない住戸--すなわち、比較的安価な住戸--を幾つか用意した上で、高齢の居住区分所有者に優先的選定権を与え、それらの住戸を取得させることは、専有面積の少ない住戸は賃貸向きであり、非居住区分所有者の需要も多いこと、しかし、その需要を満たすために小さい住戸を数多く作ると居住環境を損なうことを考慮すると、おそらく、「合理的」な住戸選定基準であるといえるでしょう。

居住区分所有者に優先的な住戸選定権を与える、という住戸選定ルールを作成する場合には、それが衡平に合する根拠、言い換えれば、そのルールが合理的である根拠を、多くの人に説明し、納得してもらえるものでなければならないでしょう。

居住区分所有者に優先選択権を与える住戸選定ルールの合理性をうまく根拠付けることができない場合でも、そのルールが衡平を欠くと判断されるのは、非居住区分所有者がその住居選定ルールにより「著しい」不利益をこうむる場合です。これは、マンション全体の設計や各住戸の価格などを総合的に考慮して、ケース・バイ・ケースで判断することになるでしょう。