検討する組織は管理組合理事会で行うべきでしょうか? 再生委員会等の諮問組織とすべきでしょうか?

検討する組織は管理組合理事会で行うべきでしょうか? 再生委員会等の諮問組織とすべきでしょうか?

1 重要な意思決定
老朽化マンションの建替えでは、建替え決議(本回答では、一括建替え決議を含む言葉として、これを用います)前の段階で、多くの重要な問題に関する決定を積み上げて行かなければなりません。例えば、①建替えか大規模修繕かの選択、②コンサルタントやデベロッパーの選定、③再建マンションの敷地の範囲(現存マンションの全敷地か一部の敷地か、隣接地を含むか)の決定、④再建マンションの配棟計画、各棟の高さ、住戸プランの決定、⑤補助金申請などについて、順次、決定をして、これらの基礎の上に、最終的に建替え決議を行う総会へ提出する議案が作成されます。

老朽化マンションの建替えは、そのマンションの区分所有者の生活や資産に大きな影響を与えますから、これらの重要事項は、そのマンションの区分所有者の団体である管理組合(団地マンションの場合には、団地建物所有者の団体である団地の管理組合)の理事会やその理事会の提案について審議する総会で決定しなければなりません。これは、すべての建替えに共通する原則です。

区分所有法は、管理組合法人となっている場合を除き、「理事会」については規定していません。管理組合や団地の管理組合の理事会は、区分所有法30条1項や65条、68条に基づいて設定される規約(管理規約若しくは団地の管理規約)に法的根拠をおいています。したがって、建替えの検討の早い段階で、規約を整備しておく必要があります。すなわち、①規約が制定されていない場合や一応規約が存在しているが、制定手続の瑕疵の故に無効である可能性が強い場合には、規約を制定する必要がありますし、②有効な規約が成立しているが、理事会や総会手続について規約に不備があると考えられる場合(これらは、大筋では、マンション標準管理規約に沿っているのが望ましいでしょう。)には、これを整備しておくことが望ましいでしょう。

同潤会江戸川アパートメント(以下では、単に、江戸川アパートと呼びます。)は、1934年に建築された古い賃貸マンションでした。昭和28年頃に、これが、賃借人に払い下げられた後、払い下げを受けた区分所有者は、消費生活協同組合法(昭和23.7.30法律200号)に基づく消費生活協同組合(以下では、単に、生協と呼びます。)を設立し、その理事会が、同マンション管理を行っていました。その後、建替えが具体的になってきた1991年に、団地管理組合法人を設立し、その規約を設定しました(江戸川アパートの建替え決議が成立したのは、2002年です)。諏訪町住宅は、東京都住宅供給公社から50年年賦で分譲されたマンションでしたので、実際の管理は、自治会(賃借人も会員です)が行ってきました。ここでも、建替えが具体化してきた1993年に、自治管理組合が成立し、規約が設定されました。その後、その有効性に疑義があり、2002年に、再度、規約を設定しています(諏訪町住宅の建替え決議が成立したのは、2003年です)。

2 建替えに関する業務の執行
(1)業務内容
建替え決議を成立させるためには、提案者(通常は、理事会)は区分所有法62条2項、70条3項の定める事項について記載した議案を作成し、区分所有者集会に提案し、区分所有者およびその議決権の5分の4以上の賛成を得なければなりません。その前に、老朽化マンションがおかれている状況に応じて、さまざまな課題を、順次、解決しなければなりません。これらの課題には、たとえば、以下のようなものがあります。

イ 区分所有者との関係。建替えの必要性についての啓蒙活動。区分所有者の意向調査。特定の建替え計画に対する賛同を得るための説得活動、特に、高齢者や経済的に恵まれていない区分所有者やその他の居住者に対する対応。建替え計画の内容や進行状況に関する広報活動など。

ロ 専門家との関係。さまざまな分野の専門家(コンサルタント、デベロッパー、設計事務所、土地測量業者、弁護士、司法書士など)の選定に係る実務(信頼できる専門家の特定、協力を得るための交渉、選任手続(たとえば、コンペの実施)など)。

ハ 行政機関との関係。再建マンション建築予定地の各種の建築規制の調査。各区分所有者の不動産登記簿の調査など。

ニ 建替え計画案の作成。専門家の協力を得て、区分所有者の意向や建築予定地の各種建築規制を反映した、建替え計画(配棟計画、各棟の高さ、住戸プランなど)の作成。

(2)担い手
建替え決議を成立させるために必要なこれらの実務的な仕事の大部分は、通常は、建替え実現に熱心な数名の区分所有者を中心として行われ、それに必要な期間も長期にわたります。江戸川アパートの建替えでも、諏訪町住宅の建替えでも、再建マンションが完成するまで約一〇年ほどの期間にわたり、建替えの中心として活動したのは、おおざっぱにいうと、数名の区分所有者を核とした、10名弱の区分所有者でした。

(3)検討組織
(2)で述べた建替え推進の担い手は、管理組合理事会のメンバーとしてこれらの仕事を行う場合と、管理組合理事会とは別個の組織(この組織は、理事会の下部機関である専門委員会であることが多いでしょうが、理事会との関係が、制度的には、あまり、明確ではないこともあるでしょう。)のメンバーとしてこれを行う場合とがあります。

江戸川アパートの建替えでは、管理組合理事会(正確には、当初は生協理事会、1991年に団地管理組合法人が設立された後は、その理事会)が建替え推進の中心であり、建替えに熱心な区分所有者は、その理事として、その活動をしました。それ故、1989年、1991年に起きた建替え推進の担い手の交代は、理事会のメンバーの交代という形をとっています。

これに対し、諏訪町住宅の建替えでは、当初は有志の集まりであった「諏訪町住宅を考える会」が、建替えの進展に伴い、「建替え推進委員会」、「建替え委員会」と名称を変え、最後まで、建替えを主導しました。「諏訪町住宅を考える会」には自治会の一部の役員も参加しており、自治会に敵対する団体ではありませんでしたが、自治会の下部機関という位置付けではなかったようです。しかし、1995年頃に、「自治管理組合」が発足した後は、「建替え推進委員会」の委員は、自治管理組合理事長が委嘱し、総会に推薦し、その承認を得るという仕方で選任されました。したがって、同委員会は、形式的には、自治管理組合理事会の下部機関という位置付けとなるものと思われます。

このように、江戸川アパートと諏訪町住宅とで、建替え推進の担い手が属した組織が異ったのは、それぞれのマンションが置かれていた状況の違いによると考えられます。

江戸川アパートでは、1972年頃に、生協理事会が建替えについて検討をはじめました。理事会がこれを取り上げた理由は、そのころ、江戸川アパート隣接地を一部の区分所有者が共有していましたが、その中心的な共有権者の多くが、現に、若しくは過去に生協理事であり、その共有する隣接地の有効利用を念頭において建替えを計画したことによるのではないかと思われます。このような沿革があったので、その後も、理事会が中心となって建替えの実務を行うことが当然と考えられていました。また、生協(1991年からは団地管理組合法人)の理事・監事の任期は2年でしたが、重任は禁止されていませんでした。それ故、建替えについて検討することが理事会の主要な仕事となった1989年頃からは、建替えに熱心な区分所有者が、長期にわたり、理事・監事を務めることが可能でした。

それに対し、諏訪町住宅では、もともと、同マンションの管理は、自治会(これは同マンションの居住者の団体であり、賃借人も参加していました)が行っていました。これは、同マンションが東京都住宅供給公社の長期(50年)分譲マンションであり、買主は、まだ、区分所有権を取得していなかったことによるものと思われます。1990年に、隣接地所有者から、共同で建替えをしないか、という話が自治会に持ち込まれたのがキッカケで、同マンションの区分所有者(正確には、この時点では、諏訪町住宅住戸の買主は、割賦金を完済していなかったので、将来の区分所有者)の一部が「諏訪町住宅を考える会」を結成して、建替えの検討を始めました。その時点では、諏訪町住宅では、区分所有者の団体は存在しなかったこと、その頃は、同マンションの居住者の間で「建替え」についてアレルギーがあったこと(だから、会の名称には「建替え」ということばが使われていません。)が、建替えを検討する別の組織を立ち上げざるを得なかった理由だと思われます。1993年頃に、「自治管理組合」という区分所有者(正確には、将来の区分所有者)の団体が設立され、自治会に代わりこれがマンションの管理にあたることになりますが、その理事・監事は、2年任期で、原則的には、持ち回りだったので、建替えを推進する仕組みとしては、適切でなかったものと思われます。斯くして、諏訪町住宅では、建替え推進に熱心な区分所有者の団体である「諏訪町住宅を考える会」(後には、「建替え推進委員会」、「建替え委員会」と改組)が、最後まで、建替えを推進しました。

建替え推進に熱心な区分所有者が属する組織には、①管理組合理事会、②理事会の下部組織である専門委員会、③理事会とは別個の団体が考えられます。建替え推進に係る仕事に要する費用は、通常、管理組合の修繕積立金によって賄われますから(マンション標準管理規約(単棟型)28条1項4号)、区分所有者は、管理組合が成立していないか(自治会がマンション管理を行っていた時期の諏訪町住宅)何ら活動を行っていない場合を除き、①若しくは②の組織に属して建替え推進の仕事をするのではないか、と思います。

この場合に、①、②の何れに属してその活動を行うのが適切かは、一概にはいえません。江戸川アパート、諏訪町住宅の2つの例から考えると、活動開始のキッカケ、そのころのマンション管理の仕組み、理事の任期に関する管理組合の規定などの違いに応じて、建替えの推進に適切な組織形態を選択すればよい、と思います。

(4)区分所有者の利益を守る手続
イ 必要性
(3)で述べましたように、建替え推進に関する業務は、通常、熱心な少数の区分所有者が長期にわたって行います。しかし、これらの人々は、熱心さのあまり、多くの区分所有者の納得を充分得ないで、ことを進めるおそれがあります。建替えは、個々の区分所有者の生活、資産に大きな影響を与える事業ですから、①②の何れの組織形態を採用するにせよ、理事会または専門委員会の議事運営や理事、委員の選任について、区分所有者の利益を守る手続、すなわち、一部区分所有者の独断専行に歯止めを掛ける手続がそこに組み込まれていることが必要です。

これは、建替えの推進に熱心な区分所有者に、不必要に煩瑣な手続を強いているようにみえるかもしれません。しかし、建替えが軌道に乗ってくると、一部の区分所有者が--多くの場合には、特定のデベロッパーや建設業者の支援を得て--その時点まで積み上げてきた建替え方針に反対する活動を行うことが少なくありません。これに対して、理事会若しくは専門委員会は、この方針は、理事会や専門委員会内部の議論に基づくさまざまな決定の積み重ねであり、区分所有者は、それぞれの時点で、これに対して、直接に、または理事や委員を通じて間接的に意見を述べることができたはずだ、と主張し、大部分の区分所有者の理解を得ることができなければなりません。そのためには、区分所有者の利益を守るフェアな手続を定めておき、それに基づく理事会や委員会さらには総会の決定を経て建替えを進めて行くことが必要です。

以下では、一部区分所有者の独断専行に歯止めを掛けるためには、理事会や専門委員会の議事運営やメンバーの選任についてどのような仕組みが望ましいかを、江戸川アパート、および諏訪町住宅の事例に基づいて考えてみます。

ロ 理事会形式の場合
建替え推進に熱心な区分所有者が、管理組合理事会に属して、建替えに関する業務を行う場合には、議事運営は管理規約にしたがって行われます。その管理規約が、理事会の議事運営について標準管理規約に沿った規定を置いている場合には、理事会の招集権者(標準管理規約(単棟型)52条1項、2項)、招集手続(同規約52条3項→43条)、定足数および議事(同規約53条)、議決事項(同規約54条、55条)について、標準管理規約の規定にしたがって建替え推進に関する業務も行われる筈です(なお、標準管理規約(団地型)54条以下にも同種の規定があります。)。その場合には、一部理事による独断専行をチェックできることが多いでしょう。

なお、標準管理規約は、理事会の議事録作成について規定していません。しかし、理事会あるいは専門委員会が建替え推進の中心的な役割を果たす場合には、各会議で、何が議論され、何が決まったかを簡潔に記録し、区分所有者がこれを閲覧することが可能であることが、単に議事の効率的な進行を確保するためではなく、理事会で議論し、決定してきたことを区分所有者に示すために非常に重要です。したがって、規約で、議事録について定めておくことが望ましいと思います。

次に、 建替えは、区分所有者の生活および資産に大きな影響を与えますから、建替え推進に熱心な区分所有者が理事会に属して建替えに関する仕事を行う場合には、理事・監事はその仕事内容について定期的に区分所有者のチェックを受けることが必要です。他方で、建替えを成功させるには、建替えの推進に熱心な何人かの区分所有者が、長期にわたり、この仕事に関わることが必要です。したがって、理事・監事について、1年とか2年という任期を決め、再任を妨げないことが望ましいと思います。

また、理事の選任方法については、江戸川アパートでは、選挙管理委員会を設置し、理事・監事候補者について、各区分所有者が無記名で投票するという方法が行われてきました。選挙による理事・監事の選任は、もともと、消費生活協同組合法28条1項が選挙による役員選任を定めていたことに由来するものと考えられます。江戸川アパートでは、試行錯誤を経て、この選挙制度を改善してきました。建替えの是非、基本方針に関する区分所有者間の対立を、理事・監事の選挙という仕方で決着をつけることができたことは、江戸川アパート建替えを実現する上で極めて重要だったように思えます。

江戸川アパートでこの方法がとれたのは、生協理事会時代からの長い歴史があったからで、多くの管理組合でこれが可能かどうかは疑問です。しかし、理事会が建替えについて検討を始めた初期の段階で、各管理組合の実情に応じて、区分所有者の意思を可能な限り反映できる選任方法を検討し、規則として文書化しておくことが望ましいと思います。

ハ 専門委員会形式の場合
理事会の下部機関である専門委員会の議事手続については標準管理規約に特別な規定はありません。標準管理規約(単棟型)55条によりますと、専門委員会は、理事会決定に基づいて設置されますから、設置をする際に、理事会で委員会規則を設定し、そこで専門委員会の議事手続を定めておくことは可能であり、望ましいことだと思います。しかし、建替え推進に熱心な区分所有者が、理事会の下部組織に属してその活動を行う場合には、管理組合理事会があまり機能していない場合が多く、理事会にこれを求めるのは難しいことが多いのではないかと思います。

諏訪町住宅では、建替えについて関心のある区分所有者は、全員、「建替え推進委員会」や「建替え委員会」に参加し、委員会内部で徹底的に議論をし、意見の一致を図る、という方針を採っていました。委員会の議事運営についてこのような方針が採られている場合には、議事手続について形式的な規則が定められていなくても、区分所有者の意思を反映して、建替え推進に係る仕事が行われたものと思われます。しかし、これが可能なのは、諏訪町住宅は住戸60戸、区分所有者54名という比較的小規模のマンションであり、しかも、そのリーダーが会議を纏める優れた手腕を有していたことによるのであり、どのマンションでもできる方法ではないように思えます。

結局、区分所有者の納得を得ながら建替えを推進するためには、大部分の区分所有者がフェアであると判断する議事運営、一部委員の独断専行に陥らない議事運営が必要であることを専門委員会の委員が理解し、それぞれの管理組合の置かれている状況に応じて、適切な議事運営方針若しくは議事運営規則を定めるしかないのではないでしょうか。

次に、専門委員会委員の任期については、理事会の専門委員会設置規則若しくは専門委員会自身の内規で、任期を定め(重任は認める)ことが必要です。専門委員の選任方法は、諏訪町住宅では、自治管理組合(後には、管理組合)理事長の推薦に基づく総会の承認でした。実際には、建替えについて関心のある区分所有者には全員、委員会に参加して貰うという方針に基づいて、「建替え推進委員会」、「建替え委員会」の内部で、適任者を理事長に推薦し、理事長は、それに基づいて、委員を委嘱する区分所有者を総会に提案したものと思われます。

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