
修繕積立金を耐震診断費用に使って良いですか?
修繕積立金を耐震診断費用に充てようとする場合には、①修繕積立金の使途について管理規約はどのように定めているか、②修繕積立金をこれに使う場合にはどのような手続が必要か、という2点について考える必要があります。
1.修繕積立金の使途に関する管理規約の規定
(1)マンション標準管理規約(単棟型)
平成16年1月23日に改正された「マンション標準管理規約」(改正前は「中高層共同住宅標準管理規約」と呼ばれていました)28条1項は、修繕積立金の使途について次のように規定しています。
管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
- 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
- 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
- 敷地及び共用部分等の変更
- 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査
- その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
耐震診断は、建替え若しくは大規模修繕をする必要があるか否かを判断する前提となる調査ですから、その費用は、通常は、同条項の第4号に該当するでしょう。また、さしあたり、建替えは考えておらず、大規模修繕をする必要があるか否かだけを判断する前提として耐震診断を行う場合も、これは第5号に該当すると考えられます。したがって、管理規約が修繕積立金の使途について、マンション標準管理規約28条1項と同じ規定を置いていれば、耐震診断費用を修繕積立金から出すことに、規約上問題はありません。
(2)旧中高層共同住宅標準管理規約(単棟型)
しかし、平成16年改正前の「中高層共同住宅標準管理規約」27条2項は、修繕積立金の使途について、上記「マンション標準管理規約」28条1項1号~3号、5号と同じ規定は置いていましたが、4号に対応する規定は設けていませんでした。したがって、管理規約が旧「中高層共同住宅標準管理規約」に基づいている場合には、「建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査」という条項が含まれていない可能性があります。
この場合には、建替えをする必要があるか否かを判断する前提として耐震診断をする場合に、これに要する費用に修繕積立金を拠出することが規約上許容されるかどうかが問題となります。何故ならば、建替えは「共用部分等の管理」には含まれないのではないか、という疑問があるからです。改正「マンション標準管理規約」28条1項に4号が挿入された理由も、これを懸念したからだと思われます。
したがって、管理規約が平成16年改正前の「中高層共同住宅標準管理規約」に基づいている場合には、安全を期し、規約を変更して、現行マンション管理規約28条1項4号のような規定を規約に挿入するか、「耐震診断費用も修繕積立金の使途の一部である」という趣旨の規定を挿入することが望ましいでしょう。ただし、規定の変更には、区分所有者数と議決権数の各3/4以上の賛成が必要です(区分所有法31条1項前段)。
(3)その他
マンション標準管理規約や旧中高層共同住宅標準管理規約は、モデル規約ですから、実際の管理規約が、修繕積立金の使途について、これらのモデル規約と同じ規定を置いているとは限りません。その場合には、その規約の文言が耐震診断費用への修繕積立金の拠出を許容しているか否かを考え、疑問があれば、(2)の場合と同様、規約の変更をすることをお勧めします。
また、修繕積立金の使途に関する規約上の定めがないことも考えられます。管理規約が有効に制定されているにもかかわらず修繕積立金について何ら規定していない、ということは、まず考えられませんが、制定されている規約が制定手続きの瑕疵により無効であることは十分考えられます。このような場合には、この機会に規約を整備し、修繕積立金の使途については、「マンション標準管理規約」28条1項のような規定を定めておくことをお勧めします。
2.手続
修繕積立金を耐震診断費用に充てることが管理規約上許容されているのであれば、実際に、これに充てるについて区分所有者の了承を得る手続きについては、特別の問題はないと思います。耐震診断を受ける場合には、その予算、診断内容を示して管理組合集会の議決を得なければなりません。修繕積立金からこの費用を支出することについて区分所有者の了承を得る手続きとしてはこれで十分だと考えます。