構造上および利用上の独立性を有する、1棟の建物の部分(区分所有法1条)のうちで規約共用部分(区分所有法4条2項前段)を除いた部分を目的とする所有権(区分所有法2条1項)を区分所有権という。区分所有権の目的となる建物部分が「専有部分」である(区分所有法2条3項)。
区分所有権も、「法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利」(民法206条)である点では、普通の所有権と変わりはない。しかし、区分所有権には、権利の目的物が、物理的存在としての建物全体ではなく、その部分であるという特徴がある。その結果、目的物の自由な使用、収益、処分は他の区分所有者に対して影響を与えることが多いので、区分所有法はこれに対するさまざまな制約を定めている。以下では、主要な3種類の制約について、簡単に説明する。ただし、区分所有建物が一団地内にあることによる制約(区分所有法第二章の規定による制約)については、ここでは触れない。
(1)区分所有者の共同の利益に反する行為の禁止
イ 共同の利益に反する行為とは
「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の利益に反する行為をしてはならない。」(区分所有法6条1項)。区分所有者だけではなく、専有部分の占有者(賃借人、使用借人など)も,共同の利益に反する行為を行うことが禁止される(同法6条3項)。
以下の事例は、判例において「共同の利益に反する行為」と認定された事例である(升田純「要約 マンション判例 155」、学陽書房、2009、296頁以下による)。
①本件専有部分の区分所有者である暴力団組長が、そこを暴力団事務所としての使用していた事例(札幌地判昭和61年2月18日判例時報1180号3頁)。
②区分所有者が専有部分を暴力団組長に賃貸し、組関係者が出入りするようになった事例(最判昭和62年7月17日判例時報1243号28頁。第1審横浜地判昭和61年1月29日判例時報1178号53頁、原審東京高判昭和61年11月17日判例時報1213号31頁)。
③Yは本件専有部分の区分所有者であるが、実質的には、暴力団組長Aがそれを管理し、処分権をもち、そこを組事務所に使用していた事例(名古屋地判昭和62年7月27日判例時報1251号122頁)。
④Y1は本件専有部分の区分所有者。そこを有限会社Y2に賃貸し、Y3(暴力団組長であり、Y2の社員であり、Y1の子)が暴力団事務所として使用していた事例(京都地判平成4年10月22日判例時報1455号130頁)。
⑤Y1は本件専有部分の区分所有者。子供Y2はそこの使用借人。Y2が、数年にわたり、その専有部分で野鳩に餌付けし、飼育をしたため、汚損、悪臭、騒音等の障害が著しくなった事例(東京地判平成7年11月21日判例時報1571号88頁)。
⑥Y1は本件専有部分の区分所有者。子供Y2はそこの使用借人。Y2が、そこで、大声で怒鳴ったり、異常な騒音、振動を出したり、消防設備の点検を拒否したりした事例(東京地判平成17年9月13日判例時報1937号112頁)。
ロ 共同の利益に反する行為を行った者に対する措置
区分所有者または占有者(賃借人、使用借人など)が「共同の利益に反する行為」をした場合に、区分所有法が管理組合に認めている手段は、以下の如くである。
①共同の利益に反する行為の停止等の請求(区分所有法57条)
区分所有者または占有者が、共同の利益に反する行為を行った場合またはその行為をするおそれがある場合には、管理組合は、区分所有者の共同の利益のため、管理組合総会(区分所有者の集会)の決議に基づき、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、またはその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求する訴訟を提起することができる(集会決議の議決要件については、「普通決議の多数決要件」の項目参照)。
②使用禁止の請求(区分所有法58条)
区分所有者が共同の利益に反する行為を行った場合またはその行為をするおそれがある場合において、共同の利益に反する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、①の請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、管理組合は、管理組合総会(区分所有者の集会)の特別決議(区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成が必要)に基づき、訴えをもって、相当の期間当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
③区分所有権の競売の請求(区分所有法59条)
区分所有者が共同の利益に反する行為を行った場合またはその行為をするおそれがある場合において、共同の利益に反する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、②の請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、管理組合は、管理組合総会(区分所有者の集会)の特別決議(区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成が必要)に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
④占有者(賃借人、使用借人など)に対する引渡請求(区分所有法60条)
占有者が共同の利益に反する行為を行った場合またはその行為をするおそれがある場合において、共同の利益に反する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、管理組合は、管理組合総会(区分所有者の集会)の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る占有者が専有部分の使用または収益を目的とする契約(賃貸借契約や使用貸借契約など)の解除およびその専有部分の引渡を請求することができる。
イで挙げた判例では、①③では競売請求が、②では賃貸借契約の解除と引渡請求が、④では競売請求、賃貸借契約の解除と引渡請求、改造部分の原状回復請求が、⑤では使用貸借契約の解除と引渡請求、不法行為に基づく損害賠償請求が、⑥では使用貸借契約の解除と引渡請求、競売請求が認容されている。
(2)管理規約による制約
区分所有法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と規定している。本条における「建物」は専有部分をも含むから、管理組合は、管理規約により、専有部分の管理や使用について定めることができる。
専有部分を住宅以外の用途に使用することの禁止(マンション標準管理規約(単棟型)12条)、専有部分の修繕等についての理事長の承認の必要性(同規約17条)、ペット飼育の制限・禁止(たとえば、東京地判平成8年7月5日判例時報1585号43頁)などが、管理規約による専有部分の使用、管理の制限の例である。
(3)建替え決議
「建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議」(建替え決議)が、管理組合総会(区分所有者の集会)において、区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数で成立した場合には、区分所有法63条1項~3項の手続を経た後に、その決議に賛成した区分所有者、その後の区分所有法63条1項~3項の手続においてこの決議に参加する旨回答した区分所有者等は、一定の期間内にこの決議に参加する旨回答しなかった区分所有者に対して、その者の区分所有権および敷地利用権の売渡を請求することができる(区分所有法62条1項、63条4項)。
目的物を処分する自由を所有権者が有するとは、その物を処分するか否か、どのような条件で処分するかを、所有権者が自分の意思で決定することができることである。しかるに、建替え決議が成立した場合には、これに最後まで賛成しなかった区分所有者は、他の区分所有者から売渡請求権の行使を受けると、自分の専有部分の区分所有権および敷地利用権を、その意に反して失うことになる。したがって、これは、区分所有権者の処分の自由に対する大きな制約である。
(4)所有権の自由に対する団体的拘束
区分所有権の目的物の使用、収益、処分に対する(1)から(3)で述べた制約は、いずれも管理組合総会における普通決議若しくは特別決議に基づいて行われる。その制約が規約に基づいて課せられる(2)の場合には、その規約の制定自身が管理組合総会における特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成)に基づいている(区分所有法31条1項前段)。なお、この制約が原始管理規約に基づく場合には、これは区分所有者全員の同意に基づいている(区分所有法45条2項、3項)。
すなわち、ここでは、個々の区分所有者の区分所有権が、区分所有者全員若しくは多数の意思により制約されている。それ故、これを区分所有権に対する団体的拘束と呼ぶことが多い(たとえば、法務省民事参事官室編、「新しいマンション法」、商事法務研究会、1983、10頁)。